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君が教えてくれた

  • 2020年12月11日

君が教えてくれた

七倉菜乃把

 同じ会社の彼と過ごすのは、毎日が驚きに溢れていた。
 私は愛知県の中でも田舎の方に住んでいて、遊びに行く、なんて言えないほど周りにはなにもなかった。だから少しでも都会に行きたくて、名古屋にある企業に就職した。彼とはそこで出会った。
 どんくさい私を好きだと言ってくれる彼のことが好きだ。付き合ってからも、彼といるだけで些細なことも幸せに感じる。

「なに?」
「なんでもないよ」

 名古屋にはあまり来ないと言うと、彼は色んな場所に連れて行ってくれた。
 初めてのデートは大須商店街。商店街というものに来るのも、食べ歩きをするのも初めてだった。揚げたての唐揚げを食べて、2人して唇を光らせた。みたらし団子のきな粉でむせて、馬鹿みたいに笑った。センスのいい彼に古着を選んでもらい、普段なら手に取らないような服を買った。
 その次のデートは名古屋市科学館。世界一大きいプラネタリウムで見る星はとても綺麗だった。休日だから小学生が多くて、同じようにはしゃいで展示物を体験した。
 会社帰りのコンビニで、肉まんを半分にして分け合ったこともある。まるで少女漫画のような出来事に胸が高鳴った。大人なのに少しのことでドキドキしてしまう。そんな自分を、少しだけ恥ずかしいと思った。

「今度、どこ行こうか」

 彼が私に優しく微笑みかける。会社の帰り道、冷たい風が頬をなでる。名駅の近くは仕事帰りの人であふれかえっている。速足で歩く人が多い中、同じスピードで歩いているはずなのに、私達にだけゆっくりとした時間が流れているように感じた。
 彼のおでこは寒くないのかな。短い前髪の下で赤くなったおでこをカワイイと思った。駅まで2人で歩く時間が、とても幸せに感じた。綺麗な三日月とビルの光が、私達を照らしている。

「オススメの場所はある?」

 一緒に行けるなら、どこでも楽しいよ。
 今までのデートを思い出して、頬が緩む。
 こんなとこがあるんだけど、とスマホで見せてくれたのは、お洒落なレストラン。いつもはカジュアルな場所ばかりけど、今回はとても大人っぽい。

「ここ、すごく料理が美味しいんだって」
「お洒落なお店だね……私なんかが入っても大丈夫かな?」

 大丈夫だよ、と笑う彼の涙袋がぷくりと膨らむ。年下なのに、私よりもしっかりしていて、いつもリードされている。たった二歳。されど二歳。
 ダメだなぁ、私。
 彼といるのはとても楽しいのに、自分の不甲斐なさを突き付けられる気がする。今度は私がデートに行く場所を決めようかな。知らない場所でも、いっぱい下調べをしたらなんとかなるよね。たまには、彼に良い所をみせたい。

「あ、」

 私たちの横を、幸せそうな家族が通った。夫婦の間で、小さな男の子が手をつなぎながらはしゃいでいた。誰がどこから見ても、幸せそうな家族だった。
 結婚。結婚か…… 私は考えてなかったけど、結婚を考えてもおかしくはない歳なんだよね。
 ちらりと彼を見ると、私と同じ家族を見ていた。彼の瞳にビルの光が反射して、キラキラと輝いていた、綺麗な瞳に映っているのは、どんな未来なんだろう。その隣に、私はいるのかな。
 そんなことを考えていると、彼と目があった。

「幸せそうな家族だね」
「そう、だね」
「……いいなぁ」

 小さく彼の呟いた言葉の意味を考えるのが怖くて、何も言えなかった。
 私と彼はこの先どうなるんだろう。こんなにも幸せなのに、どうしてこんなに不安になるんだろう。

「さっきのお店、予約しとくね」
「うん、ありがとう」

 ふにゃりと笑う彼に、私はぎこちない笑顔で返した。

 二週間後、お洒落なレストランで、私の左手の薬指は綺麗に輝いていた。

 ふにゃりと笑う彼に、私は満面の笑みで返した。

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