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芝生
ハルウララ
朗読:内藤美佐子
  
演劇人冒険舎

 四月のある日、その日は天気がとても良かったのでコンビニで購入したお弁当を家の庭で昼ご飯として食べていた。バイト帰りなので十四時過ぎと遅めの昼ご飯。
 暑くもなく、寒くもない丁度いい気候だった。ただ一つ問題点があるとすると、心地よい風に吹かれて庭に生えている大きな木から小さな葉っぱがパラパラと落ちてくることだった。ご飯に入らないように気を付けなければならない。頭にもつくがそれは正直気にしない。慣れである。
 ばぁちゃんもいたので一緒にピクニック気分でレジャーシートを敷きちょっとした小話をしていた。
「ばぁちゃんが子供の頃って何して遊んでたの?」
「何してたかねぇ……。鬼ごっことかしてたかな。当たり前だけど、今みたいにおもちゃとか携帯はなかったからね」
 ばぁちゃんはとっくに昼ご飯は済ませていたのでそこらへんに生えている雑草を抜きながら話していた。ばぁちゃん曰く、一度雑草を抜き始めると止まらないらしい。レジャーシートに座って届く範囲の雑草をブチブチと力強く引っこ抜いている。手を止めないまま、ばぁちゃんは何かを思い出したように話を切り出した。
「そうやねぇ。紙芝居って知ってる?」
「知ってる!知ってる!」
「昔は紙芝居を読んでくれるおじさんが少し開けた場所、広場に来てくれたの。それを聞きに行ってたよ」
「ボランティアみたいな?タダで聞けたの?」
 なかなか抜けない大きめの雑草を一生懸命引っ張っていたがついに諦めたばぁちゃんは立ち上がり、少し離れた場所にある道具置き場からねじり鎌を取り出して戻ってきた。
「無料ではないよ。でもあの頃はお金がなかったからね、代わりにサツマイモを渡して、ねりあめをもらっていたよ」
「え、サツマイモ?物々交換みたいやね」
「そうそう。サツマイモの大きさによってねりあめのもらえる量も変わったの。あんまり甘いものがなかったからもらえるのが嬉しくって……。紙芝居のおじさんが来たらみんなサツマイモを持って集まってたよ」
 座っている範囲で取れる雑草を取り終えたばぁちゃんは少し離れた場所に移動して、また雑草をブチブチと抜き始めた。
「そもそも。あんた、ねりあめって知っとるの?」
「ねりあめぐらい知ってるよ。お祭りで見たことあるもん。割りばしに付けてずっとグルグル練る飴でしょ。美味しかった?」
「味なんて覚えておらすか。練るのに必死やった」
「それって紙芝居見てないじゃん」
「ほやね」
 会話が出来ているような出来ていないような感じだが、これは通常運転。
「今は娯楽が増えて昔とじぇんじぇん違って便利な世の中になった」
 気が済んだのか、そう言い残してばぁちゃんは引っこ抜いた雑草と鎌をそのまま放置して家の中に入ってしまった。
 子供の頃の遊びを聞いていたはずが、最終的には時代の流れの話になっていた。
 ご飯を食べ終えた私は家の近くに設置してある自動販売機にジュースを買いに行こうと立ち上がった。
「何や食べ終ったんか」
 家から出て来たばぁちゃんは財布を握りしめ、さっきまで土まみれだった手が綺麗になっていた。
「ばぁちゃんジュース買って。コーラ飲みたい」
「はぁ。仕方ない子やね」
 呆れた態度をとったばぁちゃんだったが、心なしか嬉しそうに笑っていた。
「ばぁちゃんもコーラ飲む?」
「そうやね。なんか甘いものでも飲もうかね」
 最近やっと、炭酸に慣れてきたばぁちゃんはコーラが最近のお気に入りとなっていた。慣れた今でも相変わらず、飲むときの顔は酸っぱそうな表情をして、ゆっくりと飲む。
 食べていたお弁当をそのままレジャーシートの上に放置して販売機へ向かった。

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