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おねしょの国のヒーロー

  • 2021年4月26日
干してある布団
おねしょの国のヒーロー

「おねしょが、なおりますように!」
 一年生のかずくんは、ベッドの上で神さまにお願いしている。

 気がつくと、かずくんは虹色に輝くお城の前にいた。透明なガラスで作ったようなお城だ。そこから、冠をかぶった白いドレスの女の人が出てきた。
「かずくん、おねしょの国へようこそ。私はこの国の女王よ。今日はいっぱい遊んでいってね」
 それを聞いてかずくんは、まわりの匂いをかいだ。
「ちっとも、くさくないや。どうしてぼくの名前を?」
 首をかしげるかずくんに、女王さまは、ほほえんだ。
「子どもが好きだから、子どものことならわかるのよ。この国はおねしょでできていてね。でもいまは国がきえそうなの。あれを見て」
 女王さまが指さしたのは、きえかかった馬車だった。かずくんは、じーと見つめていたが、しばらくして馬車がくっきり見えてくると、ほーと息をついた。
「よかった! だれかがおねしょをしてくれたのね。子どもの数がへって、夢を見なくなると、おねしょをする子もへるの。だからかずくんは、この国のヒーローよ。これからも助けてね」
 女王さまが、かずくんの手をぎゅっとにぎる。
「おねしょが役にたつの? ほんとに」
 かずくんは口をぽかんとあけていたが、そのうち顔が赤くなった。
 そのとき庭から笑い声が聞こえてきた。そこには三歳ぐらいの子から、六年生ぐらいのお兄さんやお姉さんまでがいて、みんな、とびきりの笑顔で遊んでいる。かずくんも、かくれんぼとハンカチ落としに入れてもらった。最後に丸顔のおじさんが出てきた。
「さあ、すもうを取ってもらいましょう。行司は、このおねしょ太郎がつとめます」
 ジャンケンで、かずくんの相手は、のっぽの子に決まる。にらみあうふたり。
「はっけよい、のこった。のこった」
 のっぽは強い。よろけたかずくんは、お腹にぐいっと力を入れた。
 遠くから、だれかの声が聞こえてきて、それは、だんだん大きくなっていった。

 そのころかずくんは、布団からはみだして畳にくの字になっていた。
「いいかげん、おきなさい。ごはんよ」
 声をかけていたのはお母さんだった。
「もう戦えましぇん、女王さま」
 かずくんは、ねごとをいう。
「おきないと、女王さまはお冠ですよ」
 お母さんが笑いをこらえていうと、やっと目をさました。
 パジャマはぬれていたが、かずくんは、にこにこしている。
「女王さまって?」
 かずくんは、せっつくお母さんの顔を見つめた。それから、タンスの上の結婚式の写真を手にとって「そうか!」と声をあげると、すっきりした顔でテーブルについた。
「教えないなら、卵焼きはなしね」
 そういったとたん、かずくんは卵焼きを口にほおりこんだ。そのあと、もじもじしながら話しはじめた。
「ぼく、おねしょの国へ行ったよ。子どもが大好きな女王さまがいてね。その人、結婚式の写真のお母さんにそっくりだった」
「おねしょの国なんてあるの。お母さんも行ってみたいな。ふうん、私にそっくりなんて、女王さまもやさしい人なのね」
 お母さんは、ひとりでうなずいている。
「お母さんはだめ、おねしょしないから。いま、おねしょの国はたいへんなんだ」
「行けないの、残念。ところで、なにがたいへんなの?」
「おねしょをする子がへって、国がきえそうだからさ」
 かずくんの真剣な顔を見て、お母さんはころころと笑い出した。
「じゃあ、かずくんがおねしょの国を守らないと」
「だから、ぼくもたいへん」
 かずくんは鼻をふくらませる。
「どうして、おねしょをする子がへったの?」
「子どもの数がへったのと、おそくまで勉強していて夢を見なくなったからだって。夢を見ないと、おねしょの国に行けないらしいよ」
「そうか、お受験とか塾もあるしね」
 お母さんは首をたてにふったあと、
「だったら、かずくんががんばらないと」
 かずくんの背中をポーンとたたいた。
 それからもかずくんは、おねしょの国にまねかれた。火事をけしたときは、布団いっぱいのおねしょをした。
「だって、おねしょの国のヒーローだからね」

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