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客席から見た舞台
最高のキャストたち
朗読:宮谷達也
  
演劇組織KIMYO

 気がつくと僕は古ぼけた劇場にいた。

「いらっしゃいませ。」
振り返るとタキシードを着た老人が立っている。ニコニコとして、しかしどこか寂しげな顔で僕を見つめている。不思議と恐怖を感じなかった。
「この度はお悔やみ申し上げます。まだ混乱されていらっしゃると思いますが、落ち着いて聞いていただきたい。ここはあなた様の走馬灯の中でございます。」
「走馬灯?」
「はい、走馬灯でございます。人生の最後に体験される、あの走馬灯でございます。」
「ちょっと待ってください。ここは一体どこなんです?僕はもうすぐ死ぬんですか?」
僕の質問に答えるかのように、目の前のスクリーンに映像が投影される。そこには病院へ緊急搬送されて手術中の自分の姿があった。
老人は申し訳なさそうに告げる。
「あなた様の現在のご様子です。あなた様は不慮の事故に巻き込まれ、危篤状態でございます。そこで、後悔の残らぬよう、私が作成した走馬灯のフィルムをこれからご覧いただきます。」
「待ってください。僕はまだ19歳なんです。」
「心中お察しします。しかし、寿命は人それぞれで異なります。あなた様に出来ることは残りの人生を少しでも有意義にすること。私にできることはこの10分足らずの走馬灯を見ていただき、残りの人生を少しでも有意義に感じていただくことでございます。」

「あと5分で始まります。無理にとは言いません。ですが、私はあなた様に見て欲しい。どうかお願いします。」
老人は劇場から去っていった。アナウンスが響く。
「間も無く上映が始まります。」
残りの数分の人生を少しでも有意義にする。老人の言葉に動かされ、ソファに座る。まもなく走馬灯の上映が始まった。

これは僕が人生で初めて立った時のシーンらしい。両親の手を離して震えながら立っている。母さんも父さんも大喜びして写真を撮るのに忙しそうだ。

これは小学校2年生の遠足だ。弁当を友達と交換しながら食べて、勝手にはぐれて大泣きして、そんな毎日が楽しかった。大親友ができたのもこの時期だ。

これは中学1年生の頃だ。この時期は恥ずかしい。自分が一番イケてると思っていた頃だ。好きな子に告白してフラれるところまで写っている。あの老人も結構いい性格をしている。

これは去年。高校3年生の卒業式。親と喧嘩して、地元を飛び出すように出てきたのが最後だった。勝手に絶縁したと思っていた。けれど、さっき見た危篤状態の僕の病室に映っていたのは憔悴した父さんと母さんだった。

エンドロールが流れる。
主演は僕、続いてキャスト、制作スタッフ、そして監督。監督名は僕が生まれる前に死んだ祖父の名前だ。アナウンスが響く。
「最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。お出口は向かって左側です。」

走馬灯が終わった。僕はもうすぐこの世を去るのだろう。未練もあるし、後悔していることだらけだ。なんて短い人生なんだろう。けれど、短かったけれど、それでもこれは僕の人生だった。他の誰でもない、僕だけが歩んだ道だ。そしてその道は決して悪くなかったとフィルムを見て思った。優秀賞を取れるようなものじゃないけれど、この作品にしか出せない良さは確かにあって、それは胸を張って上映できるものだった。
キャストのみんな今までありがとう。

タキシードの老人が出口の前に立っている。
「フィルムはいかがでしたか?」
「悪くなかったよ、おじいちゃん。」
「それは良かった!私が近くで見守ってきた甲斐がありました。」
「なんでそんなに他人行儀なのさ?」
「それは、孫との会話の距離感を掴み損ねまして…」
老人は顔を隠しながら話す。照れているようだ。

「それよりも、お伝えしなければいけないことがございます。」
「このフィルムをご覧になったお偉い方がぜひ続編を見たいと。」
「はぁ…はい?」
「私にもよくわかりませんが、こうしたケースは非常に稀でございます。」
「ちょっと待ってくれ。」
「ではまたのお越しをお待ちしております。私も監督として撮影が終わるまで見守っておりますので」
最後に老人はニッコリと笑ってみせた。

カテゴリー
ヒューマンドラマ

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