小説の応募
Slider

カテゴリー

今年のお正月

  • 2021年3月22日

今年のお正月

水玉猫

「おねえちゃんのうそつき!」
「うそじゃないったら」
「うそだよ。お正月になったのに、いつもと同じじゃないか」
「そんなこと言ったって、前の年はそうだったんだもの。その前の年だって、前の前の年だってそうだったって大きいおねえちゃんもおにいちゃんも言ってたんだもの」
「だったら、どうして今年は違うのさ」
「知らないよ、そんなこと」
 ユリカモメのきょうだいが言い争っています。
 ここは熱田神宮近くを流れる堀川。七里の渡しに続く堀川には、毎年北の国からユリカモメたちが渡ってきます。
 姉のリリは一昨年の春に北の国で生まれたので、この冬が2回目の渡り、弟のメメは今回が初めての渡りでした。
 メメは夏の間ずっとリリから熱田の森のことを聞いていました。都会の真ん中にある大きな森には神様がいらっしゃって、お正月になると大勢の人が新年のご挨拶にやって来て、普段は静かな森がとても晴れやかになるとリリはいつもメメに言っていました。取り分け、大晦日の夜はずらりと並んだ屋台に一晩中明かりがともり、参道は身動きもできないほどの人で溢れ返るというのです。メメはそのきらびやかな賑わいを、それはそれは楽しみにしていました。だから、北の国からの初めての渡りも、どんなに疲れたって音を上げたりせずに頑張ったのです。
 なのに、いざ大晦日になっても屋台は一つも並ばず、姉のリリの話とはまるで違っていました。確かに初詣の人は大勢やって来ましたが、聞いていた数ほどではありません。メメはがっかりして、それから、うそを教えた姉のリリに腹が立ってきたのです。
「うそつき!」
「うそつきじゃないったら!もう、いい加減にしてよ!」
 いつまでたっても「うそつき、うそつき」と騒ぐ弟を持て余し、リリはユリカモメのリーダーの所にメメを連れて行きました。
 リーダーは2羽の言い分を聞いてから、説明してくれました。
「リリの言った事はうそじゃない。今は伝染病が流行っているからだよ。これまでになかった新しい伝染病だから、人間たちは治療法が見付かるまで病気が広がらないようにしているんだ。大勢で集まったり食べたり飲んだりすると病気が広がる危険があるからね。それで、今年は屋台もなくて、人間たちも分散して神様に新年の挨拶をしに来るんだよ」
「ほら、ごらんなさい、メメ。私は、うそなんかついていなかったでしょ」
 メメはバツが悪そうにリリに謝ってから、リーダーに言いました。
「リーダーは何でも知っているんですね」
「北の国から堀川に着いて最初に私は熱田の神様にご挨拶に行ったんだ。その時に大楠の白蛇様が教えてくださったんだよ。白蛇様は私よりずっと色々なことをご存知だからね」
「リーダーより物知りなひとっているんですか」
 メメは驚いてしまいました。
「いるとも。白蛇様は、私たちの群れの長老より長い年月を生きていらっしゃるんだよ」
 メメは、またびっくりです。だって、メメは世界で一番物知りなのはリーダーで、一番長生きなのは長老だとばかり思っていたのですから。それは姉のリリも同様でした。
「だったら、世界で一番長生きなのは、その白蛇様なんですか?」
 リリがたずねると、リーダーは首を横に振りました。
「いいや。もっと長生きなのは白蛇様がいる大楠の木だよ。樹齢千年のご神木だ」
「それじゃ、そのご神木様が世界で一番長生きなの?」
 今度は、メメがたずねました。
「いいや。ご神木より、もっと長く、この地にいらっしゃるのは熱田の神様だよ。何しろ、神様がこの地を作ったんだからね」
 リリもメメもまたまたびっくりです。
「それじゃあ、熱田の神様にお頼みしたら、来年のお正月は、またいつもの年のように賑やかになるのかな」
 メメがつぶやくと、リーダーはうなずきました。
「人間たちも、そう願っていたよ」
「おねえちゃん、ぼくたちも、これからお願いしに行こうか」
「うん。そうだね」
「行っておいで。でも、くれぐれも神様に失礼のないように新年のご挨拶をするんだよ」
「はい、リーダー」
 リリとメメは、元気よく熱田の森の空に飛んでいきました。

タグ
カテゴリー
童話

コメントはこちらから

メールアドレスが公開されることはありません。

※作品に対する温かいコメントをお待ちしています。
※事業団が不適切と判断したコメントは削除する場合があります。

Voicy Novels Cabinet