那天，我忽然发现手头上没有手机，时间快到晚上11点，我离开一位女设计师在今池的办公室已经约20分钟了。当时连“加拉帕戈斯（传统）手机”这一过时的概念都还没有出现，但约7成多的日本人已拥有手机。按习惯，我大致用40分钟开完了会，喝了两杯啤酒便走上回家的路。顺路稍微看了一下二手书店，乘地铁往东大约走过了两个区。发现手机丢了，我就急忙地下车，用站台上的公共电话给设计师办公室打了电话。
“喂，我是高坂。”接我的电话是一位男士，让我有所尴尬。对了，我其实早知道她已经结婚，办公室是她住房的一部分。她的夫君也是一位设计师，他服务于另外一个行业，我对他也并不陌生，只是从来没有机会直接说话而已。他妻子好像暂时不在他身边，我对他打了个招呼，说了些客套话。与此同时，我在想应该如何把我的窘境告诉他，然而他先问我：“你是不是在找手机？” “原来在你那里。真不好意思，我不小心把它给忘了”我刚要说这句话，夫君打断了我，说：“刚才我接了一个电话，说是拾到了月山先生的手机，是用月山先生的手机打来的电话，对方说你能不能来‘美仕唐纳滋’店前。我这样说你清楚了吗？”
他的意思是，那个人从我的通话记录中看到设计师办公室的电话号码，所以打了他们的电话。拾到手机的人说，可以把手机交给警察，但因为打算继续呆这里，所以直接递交对彼此较为省事。夫君一时拿不定注意，对方说他会等5分钟再打一次电话，说完了就挂断了电话。
这是不是可疑的情况？的确，我在访问办公室前先在“美仕唐纳滋”买了些甜甜圈，作为伴手礼。在店内丢手机的，这也非常现实，但时间这么晚，还在商店门前呆了这么久，不像是个正经人啊。不过明天以后再次前往主管警察署报案也很麻烦，时间久了还会被冒用。再说，我有几个人想用手机联系,也不好意思再给夫君添麻烦。我对他说：“我大概15分钟后到，我穿着黑大衣，带着深红色的单肩包，戴着深绿色的毛线帽。”夫君表示关心，说着“有什么事随时都可以联系”，便把“美仕唐纳滋”前等待者的名字告诉了我。
“他叫丹尼斯，他会讲一点日语，只是不那么流利。你加油吧。”
“什么？你早点说这个吧！”这句话都挂在了嘴边，但我连吐句槽的心思都没有了。看来，当真正着急的时候，人反而都会试图保持平静。没过几秒钟我们就结束通话了。当时我特别热衷于观看美国职业篮球联赛的赛事，一听丹尼斯就想到了丹尼斯·罗德曼。他刻了覆盖全身的纹身，头发染成金黄色，是典型的“不良少年”形象，而且身高竟然有203厘米。还是先到警察报案为宜？我心里犹豫，路上屡次驻足停下了。
“喂，月山先生？”
丹尼斯敏锐地注意到了正要到达商店的我，叫了我一声。他身高与我差不多，黑黑的手臂上刻有鲜丽的纹身，背后有几个朋友拿英语调侃。他用手摇摆着我的手机，走了过来。我下定决心：如果情况不妙我就全速逃跑。我对他用很夸张的手势表示友好态度，边靠近他边说：“你是丹尼斯吧，多谢你！”当我要从他手中拿取手机时，他制止了我，说：“不着急，不着急。Wait a minute。”喔，他在说要我等一下。丹尼斯很熟练地操作了我的手机，我想起钱包里还有多少钱，琢磨着应该给他多少。丹尼斯让我关注手机屏幕，指出了通话记录上的电话号码。
“这是你的朋友，是吧？我给他打了电话，时间写在这里。还有一次，这是我第二次给他打的电话。就这些了。清楚了吗？”
刚开始我没明白他的意思。看来，他在说明他只打了两次电话，除此之外都没有用过。他是想让我知道他没有把这部手机用于恶意目的。说完了，他爽快地把手机还给我，轻轻地拍了我肩膀，走回他朋友圈里去了。“请等等，你帮了我大忙，我很感激。能不能让我好好谢你一下？”我对他后背大叫了一声。他转过身来对我说：
“如果有机会再次见面，你请我杯啤酒，好吗？”
应该的！我还以为自己多么伟大呀。平时我经常对儿子和学生强调，偏见会让人心怀狭窄，但看我今天这德行！我实在是无地自容，匆匆忙忙地离去了。地铁末班车只不过是个借口，我本来应该回到他们的圈里，真诚地表示感谢，痛痛快快地与他们喝到天亮。我当时就知道我们不会有第二次机会。从此以后，每到今池我都会感到后悔。

その日、携帯電話を携帯していない、コトに気づいたのは、今池にある女性デザイナーさんのオフィスを出て２０分ぐらいした、夜の１１時近くだった。まだガラパゴスなどという郷愁のある分類すら存在しない時代。それでも日本人の７割強が、携帯電話を携帯していた頃。いつもの習慣で、打ち合わせは４０分で終え、ビール２杯をいただいて帰路に着いた。古本屋を軽く覗いて地下に潜り、東へ２区向かった辺り。慌てて地下鉄を降り、ホームの公衆電話から彼女のオフィスに電話を入れた。
はい、高坂です、と男の声。いきなりドギマギする。ああ、そうだった。彼女が既婚者であることも、そのオフィスが住居兼の一室だったことも、ちゃんと周知のコトだった。ご主人もまた別のジャンルのデザイナーで、お互い知らない間柄ではなかったが、直に話をするのは初めてだった。どうやら彼女は近くにいないようで、いつもお世話に、などと社交辞令を述べつつ、現状を伝える言葉を探していると、彼が先に、もしかして携帯ですか、と問うてきた。僕の、あ、ありましたか、いやぁついつい、を遮って、彼が話す。あのね、ついさっき、月山さんの携帯電話を拾ったって人から、月山さんの携帯電話から電話がありましてね。ミスタードーナッツの前まで来れないか、なんて言うんですよ。話、判ります？
要するに、僕が紛失の直前に掛けた彼女のオフィスの電話番号を通話履歴から探り、コンタクトを取ってきたわけだ。このまま警察に届けてもいいけど、俺はまだ当分ココにいる、その方がお互い便利じゃないか、という申し出らしい。電話を受けたご主人が、どうしたものかと考えていると、５分後にまた掛ける、と言って電話が切れたらしい。
うーん。これは怪しくはないのか？　確かにオフィスを訪れる直前、差し入れをミスドで買った。そこで落としたリアリティは十分だ。でも、この夜更けに、ミスド前でなぜそんなに長時間？　それ、タムロって言うよなぁ。でも明日以降、また当該の警察暑に出向くのも面倒だし、余計に悪用される恐れもある。早々に携帯で連絡したい人もいるし、何よりこれ以上ご主人を関わらせるのも申し訳ない。じゃあ僕は１５分ぐらいで戻りますから、相手から掛かってきたらそう伝えてみて下さい、僕は黒いコートにエンジのショルダーバッグ、深緑のニット帽です、と伝えると、ご主人は、何かあったらいつでも掛けてね、と、心配してくれた後、そのミスドで待つ男性の名前を僕に告げた。
「名前はデニスだって。片言だけど日本語は話せるみたいだから、頑張ってね」
ちょっとぉ、最初に言ってくださいよぉ、と、ツッコむ余裕もなかった。ヒトは、本気で動揺すると、平静を保とうとする傾向があるようで、数秒後に通話は終わった。当時、ＮＢＡバスケットボールにはまっていた僕にとって、デニスとはすなわちデニス・ロッドマン以外にイメージできない。全身にタトゥーを入れ髪は金色、バッドボーイズの代表格だった２０３㎝の大男。やっぱ先に警察かなぁ、と何度も足が止まった。
「ヘイ、ツキヤマ？」
デニスは店に近づく僕を目ざとく見つけ、声をかけてきた。身長こそ僕とどっこいだが、黒い腕には鮮やかなタトゥー。英語で野次る数人のお仲間を背に、僕の携帯をヒラヒラさせて近づいてくる。僕は、いざとなったら全速力で逃げる決意を確かめ、精いっぱいのオーバージェスチャーで、デニス？　サンキュー、と歩み寄る。彼が差し出した携帯電話を受け取ろうとすると、デニスはその直前で渡すのを止める。アワテナイ、アワタナイ、ウエタミ、ときた。ああ、ウエイト、ア、ミニッツ、ちょっと待て、ね…。そしてデニスは使い慣れたように僕の携帯を操作し始める。僕はさっき確認した財布の持ち金から、いくらが相場かを推敲する。デニスは僕に携帯の画面を見る様うながし、履歴の番号を指さした。
「コレ、ユーのフレンド、ＯＫ？　ボク、掛ケマシタ。コレ、ソノ、ジカン。ネクスト、コレ、２カイメ、ボク、カケマシタ。オーバー。ＯＫ？」
すぐには真意が判らなかった。どうやら、この携帯を２度自分が使ったコト、外には一切悪用してないコト、の確認だったらしい。デニスはそれだけ言うと、あっさり携帯を僕に返し、肩をポンポンして仲間の方に帰っていく。待って、とても助かった。ありがとう。せめてお礼をさせてほしい。そんな言葉を背中に浴びせると、彼は振りむいてこう言った。
「ツギ、アッタラ、ビア、ＯＫ」
オフコース。いつも息子や学生に、先入観がヒトの心を狭くする、なんて偉そうに喋っている僕は、恥ずかしさに耐えきれず、その場を足早に立ち去ってしまった。地下鉄の終電なんか言い訳に決まっている。僕はタムロする彼らの中に戻り、とことん感謝を伝え、朝まで飲むべきではなかったのか。今池に足を運ぶたび、２度と会えない、その時に既に判っていた運命に、今でも後悔をしている。