NAGOYA Voicy Novels Cabinet

GGとお散歩

住宅街の道

 京都に住んでいるぼくは小学五年生。毎年、夏休みと冬休みに名古屋に住む祖父の家に遊びに行っている。小さい頃は「じいじ」と呼んでいたが、小学校に入るくらいだっただろうか、「俺のことを『じいじ』と呼ぶな。GGと呼びなさい。」と言われ、それ以来、GGと呼んでいる。いろんなことを教えてくれるので、GGの家に行くのがいつも待ち遠しい。
 GGは、ほら貝という町に住んでいる。珍しい地名なので一回聞いてすぐに覚えた。「ほら貝に住んでいる」と聞くと、ついつい大きな巻貝の貝殻からGGが上半身だけ出している姿を思い浮かべてしまう。GG、ごめんなさい。実際は、どの家にも庭とガレージがある郊外の住宅地といった感じの町だ。
 GGは、毎日欠かさずウォーキングをしている。GGの家に行ったときは、ぼくも一緒についていく。実は、ぼくはこれが一番楽しみだ。ウォーキングと言っても、黙々と速足で歩き続けるのではない。ぶらぶらとしゃべりながら歩くので、お散歩と言った方が正しいと思う。ぶらぶらと歩きながら道はぼくが決める。と言っても、曲がり角でどちらに行くか決めるだけだ。
 GGの家のまわりは曲がっている道が多い。曲がり道には、どこに行くのかわからないワクワク感がある。ぼくが住んでいる京都は、道が碁盤の目のようになっているので、三回角(かど)を曲がれば元の場所に帰ってこられるような安心感はあるが、面白みに欠ける。
 また、GGの家のまわりは坂道も多い。ふうふう言いながら坂道を上りきった後に後ろを振り返ると、上ってきた街並みを見下ろすことができる。ぼくが住んでいる京都は、町が平らなのでこんな感覚は味わうことができない。
 歩きながらGGにいろんなことを質問すると、何でも答えてくれる。目に止まった車の名前、咲いている花の名前、すれ違う散歩中の犬の名前。クイズ番組に出ればいいところまでいけるのではないかと思う。
 GGは、雨でも雪でも一日も欠かさず歩く。ある年のことだ。夜から降り始めた雪が、朝、窓を開けたら数センチ積もっていた。
「行くぞ。」とGGの声。すでに、ぼくの分の長靴も用意してくれてあった。雪の日は圧倒的に車が少ない。だから、町も静かだ。屋根も歩道も真っ白で、車の車輪が通るところだけ色が変わっている。いつもと違う町の様子にぼくのテンションは上がる。道はいつものようにぼくが決める。
 まだ閉まっているケーキ屋さんの前を通り、公園の横を通り抜け、角にクリニックがある交差点を右に曲がることにした。すると、目の前には、長くてまっすぐで、そして、真っ白な下り坂が広がっていた。かなり先に見える坂の突き当りは、広くて何かの駐車場のようだ。
「この坂でスキーしたら気持ちよさそうだね。」と言いながら、ぼくはスキーの真似をした。
 そうしたら、GGが、
「なんで知っているんだ。ここは昔、スキー場だったんだぞ。」と言った。
「えっ!スキー場?」冗談のつもりで言ったのに思いがけない答えが返ってきて、ぼくは驚いた。
「四十年以上前の話だが、ここはスキー場だったんだ。アルプススキー場という名前だったかな。」
「年に一回くらいしか雪が積もらない名古屋で、しかも、数センチしか積もらないのにスキー場なんてできるわけないじゃないか。」
「人工スキーと言って、人工芝のようなブラシ状のマットの上を滑るんだよ。滑り降りたら、リフトやゴンドラではなく、エスカレータみたいなもので上がってくるんだ。」
完全に予想外の答えにぼくの想像力はめちゃくちゃ膨らんだ。
 赤いマフラーをなびかせたGGが颯爽と滑り降りていく。途中で大きく手足を広げて大の字ジャンプ!下まで行くとこちらを振り向いて親指を上にあげる、、、。

 GGとのお散歩は、いつもぼくに何かしらときめきを与えてくれる。だから、最高に楽しい。
「GG、また遊びに来るから、いつまでも元気でいてね。」

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