NAGOYA Voicy Novels Cabinet

なぜなのだろう

たこ焼き

 なぜと思うことが世の中にはたくさん存在している。それを、紐解くことは出来はしない。私は神様でもなければ頭の良い学者様でもないのだから。
 大須の銀だこでたこ焼きを頬張りながら赤坂は問う。
「なんでたこさんは足がいっぱいあるのだろー」
そんなことを唐突に言われても私にはわからない。
「8つ入りのたこ焼きを作りやすくするためでしょ」
「んん〜そんなもんかな〜」
 赤坂は間延びした返答をする。
 海を必死に生きるたこさんが、人間様のために足を8本生やしたわけではないことをつっこんでほしかったのだが。
 たこ焼きを食べ終え、あてもなく漂うように私たちは雑踏の海へと潜り込む。
 人を避けながらはぐれないよう進んで行く。 
 赤坂が「こっち」と私を手を招きながら呼んでいるのが聞こえた。
 赤坂のいる場所は人の波が比較的弱いところであったおかげでスムーズに移動することができた。
 進んで行くと広場では、マジックショーの上演の準備中であった。
 その男性はマイクを片手に、「タネも仕掛けもありません」とお決まりのセリフ。
 素人であるこちらからするとタネも仕掛けもわからないというのが実際のところではある。
 彼はトランプを取り出し、全て表向きにしてこちらに見せる。
 赤坂を指名して、好きなところでストップを、と言われ彼女は高速で捲られていくトランプを真ん中辺りで止める。
 私はその間手品師の手を、万引きGメン顔負けの集中力で見つめる。
 だが、私が気づく瞬間など与えてくれるはずもなくあっさりと赤坂の選んだトランプは一番上へと導かれていた。
 
帰り道に相変わらず間延びした声で「全くわからんなー」の一言。
「私も全然わからんかった!」
「鞍馬ずーっと眉間に皺よっとったよ」
そう指摘され、私は思わず眉間を抑えるが、当然ながらしわは一つもなく肉の柔らかさと骨の感触が指に伝わってくるだけであった。
 赤坂は意外と周りを見ている。私は手品に夢中で自分のことにさえ気づかなかったのにくらべ、彼女はしっかりと私のことを気にかけていたのである。
 
 時に私は不安になる。自分中心である私に対し、さりげなく周りを見渡している赤坂。
 なぜ対照的な私が友達になれたのだろう、と。
 もしもこの友情がいつか霧のように、川が陸を隔てるようになくなってしまうのではないか。
 そんな不安がよぎるのである。
「鞍馬は考えすぎだっぴっぴー」
思考の海で遭難していた私の尻をバッグで叩く。
「なんで考えてるって・・・・・・」
「ずーっと黙ってたらわかるっぴー」
訳の分からない語尾を付けながら私を励まそうとしてくれている。
「ごめんっぴー」
「あー!真似したなっぴー!」
私たちは語尾を尾ひれのようにはためかさせながら人間関係という海を泳いで行く。
 いつか波がこの友情を攫おうとしても、しがみついていける。
 私は赤坂を友達として大切に思っている。わたしの心の奥底の小石が、感情の波に揺られて転がっていく。今はまだ水面から覗いてみてもわたしの心の全ては見透かせない。
「んじゃ、また学校でっぴー」
 赤坂はまだ語尾を付けてあそんでいる。
 私もまたねと一言だけ。
 ゆらりゆらりと電車に揺られ、手すりに掴まったまま思考のなみに意識を漂わせている。
 ついさっきまで、一緒にいたというのに心がチクチクとする。
 寂しいな、とふと思う。同時にまた会えるよ。とも思う。
 なぜなのだろう。
 人付き合いは窒息してしまいそうなほどに苦しくなる時があるのに、私はそんな辛い行為をいくら獲物を喰らっても飽き足りないサメのように飢えてしまうのか。

モバイルバージョンを終了