NAGOYA Voicy Novels Cabinet

最初から知ってるはず

台湾ラーメン

 「ごめんごめん!迷ってて遅くなった」
「また〜?何年名古屋住んでたのよ。まあ、私もちょっと迷ったけど」
「やっぱり迷うよね」
 待ち合わせ場所で先に待っていてくれた美弥と顔を合わせ、笑い合う。
 東京の大学に入学したのを機に春から一人暮らしを始めたけど、今は夏休みで実家に帰ってきている。帰省した時には会おうねって前から約束してた地元の友達の美弥と名古屋駅で待ち合わせしたけど、やっぱりここは何回来ても迷うな。広いし、路線の数も異常なくらいに多いんだもん。
「どうする〜?どこ行く?」
「台湾ラーメンは?久しぶりに食べたいかも」
「いいね!私も食べたくなってきちゃった」
 ずっと食べたいと思っていたものを伝えると、美弥もすぐに同意してくれて、私たちの足は何十回も行った中華料理店へと向かう。名古屋ではあちこちで台湾ラーメンを出してるお店を見かけるのに、東京ではほとんど見かけなくて食べられなかったから、名古屋に帰ってきたら絶対食べたいと思ってたんだよね。

 混んでいるお店に入り、それぞれ台湾ラーメンを頼むと、数分も経たないうちに運ばれてきた。
 豚ひき肉、ニラ、もやしが入ったラーメンにたっぷりの唐辛子が入っていて、見るからに辛そうな麺を口に入れると、一口食べただけでどっと汗が出てくる。そうそう、これだよ。辛いけど、やっぱりおいしい〜!
「東京の大学はどう?」
 半分ほど無言で食べた後、美弥から話しかけられ、一旦はしを置く。
「ん〜、あんまり上手くいってないかも。みんないい子なんだけど、いまいちノリについていけなくて」
「そうなの?」
 水を飲みながら私を見つめる美弥に曖昧に返事をする。
 東京でも友達は出来たし、別に仲間外れにされてるわけでもない。でも、なんか向こうの子はみんなセンスが良くて、キラキラして見えて、気後れしちゃうというか……。
(名古屋って何が美味しい?いつもどこで遊んでたの?)
 そうやって聞かれても、自慢できるところもぱっと思い浮かばず、いつも口ごもってしまう。
名古屋も十分都会だと思ってたけど、東京の方が都会だし、観光名所もこれといって思いつかないし、おいしいものも……。
 そんなことを考えていたら、自分自身も何も自慢できるところがないパッとしない人間に思えてきたんだよね。
 思いの丈をツラツラと美弥に語っていると、美弥は頷きながらもう〜んと首をひねる。
「比べる必要ないと思うけどね。咲にもいいところたくさんあるし、名古屋にもおいしいものたくさんあるじゃん。台湾ラーメンとか」
「台湾ラーメンは台湾名物でしょ?」
「え?名古屋名物だよ?台湾人の店主が作ったから台湾ってついてるけど、台湾の麺を名古屋の人の好みに合わせてアレンジした名古屋生まれ名古屋育ちの料理だよ」
「本当?二十年近くも名古屋にいて知らなかった……」
 名古屋のことは知り尽くしてると思ってたけど、まだまだ知らないことがたくさんあるんだ……。初めて聞いた衝撃の事実に軽くショックを受けていると、ちょっとトイレ行ってくるねと美弥が席を立つ。一人になって何気なくスマホをチェックすると、東京でいつも一緒にいる子からメッセージが来ていた。
(夏休みに名古屋に遊びに行こうと思うんだけど、オススメのとこ教えて〜。美味しいものも食べたい!)
 私、何を卑屈になってたんだろう。みんなはきっと私のことも名古屋のことももっと知りたいと思って、色々聞いてくれていたのに……。 美弥の言う通り、東京には東京の良いところがあるけど、名古屋には名古屋の良いところがたくさんある。名古屋にはおいしいものも楽しいところもたくさんあるって私は知ってるんだから、最初から比べる必要も卑屈になる必要もなかったんだ。
 案内するねと返信して、スマホをカバンにしまうと、ちょうど美弥がトイレから帰ってきた。
「ニコニコしてるけど、何かいいことあった?」
「うん、台湾ラーメンに元気もらっちゃった。よし!もう一杯頼もう。すみませ〜ん!台湾ラーメン一つ追加でお願いします!」

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