NAGOYA Voicy Novels Cabinet

いつかの君に送るあの日の俺

大学の建物の外観

 目が覚める。スマートフォンを手繰り寄せて確認すると10時21分だった。両親は既に出掛けていた。家から大学まではどう頑張っても1時間はかかる。2限(11時から)は諦めよう。人間潔さが大事だ。

 10時24分。一緒に2限を受けている秋本に「今起きた。そういうことでレジュメ俺の分もよろしく。3限に会おう」とLINEを送る。1分も経たないうちに既読がつき「そのまま永遠に眠っててくれ」と返信。冷たい。少し考えて「今日の昼学食おごるから♡」と送る。今度は3分ほど経って「カツカレーとサラダの小鉢で。さっさと来い」と返信。昼食代を600円ほど余分に払わなければいけなくなったが持つべきものは友だ。よし、これで2限への憂いは無くなった。

 10時40分頃。シャワーを浴びて着替える。今日は白のワッフル地の長袖のヘンリーネックにインディゴのワイドのジーンズをロールアップしてライトグレーのハイカットスニーカーを合わせてやろう。暑いのか寒いのか分からない9月中旬の今の気候が嫌いです。

 10時50分過ぎ。スマートフォンでニュースを見ながら朝食。すぐまた昼食を食べることになるからプロテインバーと紙パックの野菜ジュースで済ます。

 11時10分辺り。何となく映していたBSのメジャーリーグ中継が面白くて夢中になってしまい昼休み開始(12時30分)の時間までに大学に辿り着くか怪しくなる。それもこれも1点差リードの9回ツーアウトから突然2者連続フォアボールを出すクローザーが悪い。

 12時21分。バスと地下鉄を乗り継いで大学の最寄り駅に。セーフ。こっから歩いて5分もあれば到着だ。そのまま地上に出てすぐ目の前にあるコンビニで昼飯の買い物。最近筋トレにはまっているので学食では食べない。コンビニで「蒸し鶏と野菜がたっぷり入ったサラダスパ」みたいな名前の商品とお茶のペットボトルを買う。最近ほうじ茶がマイブーム。お会計の際に突然「授業頑張ってくださいね」とレジのお姉さんに満面の笑みで言われる。その笑顔に心奪われかけるが次のお客さんにも同じように声を掛けているのが背中越しに聞こえたので一気に覚める。

 12時33分(だと言われた)。学食で秋本と合流。開口一番「3分遅刻」と言われる。細かい奴だ。財布から600円が消えて昼食。そこで重大なことに気付く。箸、フォーク類が無かったのだ。もらい忘れたようだ。お姉さんの笑顔に見とれている場合ではなかった…

 ここまで一気に書いて俺はシャープペンをノートの上に放り投げた。疲れた。日記を書くってこんなに疲れることなのか。午後の分を書く気力はもう残されていなかった。少し前に掃除をした時に発掘されたこの未使用のノート。恐らく高校時代に買ったまま存在を忘れ去られて机の奥深くに封印されていたこのノートの活用法を考えていた時、俺は思い当たったのだ。そうだ、日記を書こう、と。
 日記を書こうと思い立ったのはそれだけではない。最近の俺は同じ毎日の繰り返しに飽きていたのだ。不安も感じていたのだ。特に大学3年生になってからのこの数か月、同じ毎日でこんなんで大丈夫なのかと切に感じていたのだ。
もうすぐ就職活動なるものを始めなくてはいけない。その時に振り返って俺のこの積み重ねた日常はカップ麺の作り方よりも薄くペラペラなものなのじゃないかと。
 でも、である。今回こうして日記(2時間分)を書いて気付いたことがある。なんの変哲もない振り返る必要もないと思っていたその1日1日もしっかりつぶさに見て行けばちゃんと微妙な差異があって些細な彩りがあるということに。同じ1日が1つとして存在しないということに。だから昔の偉い人はやたらと日記を書いて残したのかもしれない。想像力の貧困な俺は「あんたらのせいで古文がめんどくさい」と思っていたがそれは間違いだった。
 そんなことに気付けただけでも今日という1日は俺にとって得難い1日となった。さあ、この感動を日記に残そうか?いや、もうシャープペンは俺の手を離れてしまった。それはまた次の機会にしよう。俺は真新しいノートを閉じた。

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