Voicy
Voicy
Voicy
Image is not available
Image is not available
Image is not available
Image is not available
Image is not available
Image is not available
Image is not available
Image is not available
Slider
干してある布団
おねしょの国のヒーロー

「おねしょが、なおりますように!」
 一年生のかずくんは、ベッドの上で神さまにお願いしている。

 気がつくと、かずくんは虹色に輝くお城の前にいた。透明なガラスで作ったようなお城だ。そこから、冠をかぶった白いドレスの女の人が出てきた。
「かずくん、おねしょの国へようこそ。私はこの国の女王よ。今日はいっぱい遊んでいってね」
 それを聞いてかずくんは、まわりの匂いをかいだ。
「ちっとも、くさくないや。どうしてぼくの名前を?」
 首をかしげるかずくんに、女王さまは、ほほえんだ。
「子どもが好きだから、子どものことならわかるのよ。この国はおねしょでできていてね。でもいまは国がきえそうなの。あれを見て」
 女王さまが指さしたのは、きえかかった馬車だった。かずくんは、じーと見つめていたが、しばらくして馬車がくっきり見えてくると、ほーと息をついた。
「よかった! だれかがおねしょをしてくれたのね。子どもの数がへって、夢を見なくなると、おねしょをする子もへるの。だからかずくんは、この国のヒーローよ。これからも助けてね」
 女王さまが、かずくんの手をぎゅっとにぎる。
「おねしょが役にたつの? ほんとに」
 かずくんは口をぽかんとあけていたが、そのうち顔が赤くなった。
 そのとき庭から笑い声が聞こえてきた。そこには三歳ぐらいの子から、六年生ぐらいのお兄さんやお姉さんまでがいて、みんな、とびきりの笑顔で遊んでいる。かずくんも、かくれんぼとハンカチ落としに入れてもらった。最後に丸顔のおじさんが出てきた。
「さあ、すもうを取ってもらいましょう。行司は、このおねしょ太郎がつとめます」
 ジャンケンで、かずくんの相手は、のっぽの子に決まる。にらみあうふたり。
「はっけよい、のこった。のこった」
 のっぽは強い。よろけたかずくんは、お腹にぐいっと力を入れた。
 遠くから、だれかの声が聞こえてきて、それは、だんだん大きくなっていった。

 そのころかずくんは、布団からはみだして畳にくの字になっていた。
「いいかげん、おきなさい。ごはんよ」
 声をかけていたのはお母さんだった。
「もう戦えましぇん、女王さま」
 かずくんは、ねごとをいう。
「おきないと、女王さまはお冠ですよ」
 お母さんが笑いをこらえていうと、やっと目をさました。
 パジャマはぬれていたが、かずくんは、にこにこしている。
「女王さまって?」
 かずくんは、せっつくお母さんの顔を見つめた。それから、タンスの上の結婚式の写真を手にとって「そうか!」と声をあげると、すっきりした顔でテーブルについた。
「教えないなら、卵焼きはなしね」
 そういったとたん、かずくんは卵焼きを口にほおりこんだ。そのあと、もじもじしながら話しはじめた。
「ぼく、おねしょの国へ行ったよ。子どもが大好きな女王さまがいてね。その人、結婚式の写真のお母さんにそっくりだった」
「おねしょの国なんてあるの。お母さんも行ってみたいな。ふうん、私にそっくりなんて、女王さまもやさしい人なのね」
 お母さんは、ひとりでうなずいている。
「お母さんはだめ、おねしょしないから。いま、おねしょの国はたいへんなんだ」
「行けないの、残念。ところで、なにがたいへんなの?」
「おねしょをする子がへって、国がきえそうだからさ」
 かずくんの真剣な顔を見て、お母さんはころころと笑い出した。
「じゃあ、かずくんがおねしょの国を守らないと」
「だから、ぼくもたいへん」
 かずくんは鼻をふくらませる。
「どうして、おねしょをする子がへったの?」
「子どもの数がへったのと、おそくまで勉強していて夢を見なくなったからだって。夢を見ないと、おねしょの国に行けないらしいよ」
「そうか、お受験とか塾もあるしね」
 お母さんは首をたてにふったあと、
「だったら、かずくんががんばらないと」
 かずくんの背中をポーンとたたいた。
 それからもかずくんは、おねしょの国にまねかれた。火事をけしたときは、布団いっぱいのおねしょをした。
「だって、おねしょの国のヒーローだからね」

カテゴリー
ファンタジー

コメントはこちらから

メールアドレスが公開されることはありません。

※作品に対する温かいコメントをお待ちしています。
※事業団が不適切と判断したコメントは削除する場合があります。