NAGOYA Voicy Novels Cabinet

路地

たくさんのブローチとペンダント

 大須へ行くときにはルールがある。
 大須観音駅の2番出口を出たら大須観音の前を通らずに必ず一つそれた道、東仁王門通りへつながる道を通って大須へと入っていく。なんで、ときかれてもなんでなのか自分でも実はよく分からない。初めて一人で来た時からそこを通っていたからなのかもしれないし、ハトの大群を避けるためなのかもしれないし、道の脇に乱雑に置かれた自転車たちを眺めたいから、なのかも。
 大須の古着屋やヴィンテージのアクセサリーのお店や雑貨屋はおしゃれでとにかくかわいいものばかりだった。けど、値段だけは全然かわいくなかった。
 その日もルールに従って、ぐちゃぐちゃに置かれた自転車らを横目に大須へ入る。私はとある古着屋の前まで来たが、お金がないしどうせ買えないしな、とため息をついた。その時に古着屋の横っちょに2メートルくらいしか幅のない、狭い路地を発見した。
 私はきょろきょろしながらその路地をゆっくり歩いた。大須へ何回も来ているのに、こんな路地があったなんて知らなかった。日本酒専門店、カワウソカフェ、女性専用美容院、そこには魅力的なお店が佇んでいた。壁に、『ここにあるアクセサリー全部1000円!』と手書きで書かれた紙が貼ってあるのが目にとまった。すごく気になってそのお店の扉を開けると、からん、と音がした。八畳くらいの小さい雑貨屋で、壁にドライフラワーが飾ってあってとてもかわいい。「イラシャイマセ。」店員さんはすごく早口だった。私は会釈をしてさっそくアクセサリーを眺める。ブレスレットやネックレスやピアスがずらっと並んでいて、私はほんとにこれが1000円?と思った。
「そこのアクセ全部1000円」私の疑問を感じ取ってくれたのか、店員さんがそう言った。
「これもですか?」私はそこに並ぶアクセサリーの中でもひと際オーラを放っていた、緑と金色が鮮やかな、オリンピックのメダルくらいの大きさのネックレスを指さしてきいた。
「モチ。」店員さんがいう。もちろん、ってことなのだろうか。
これ買います、私はオリンピックメダルを持ってレジへ行った。アクセサリー用の小さい紙袋に丁寧にそれを包んで入れてくれた。その短い時間で私たちは色々な会話をした。どこの大学でどんなことを勉強してるの、ときかれて、小説を書いたりしていると言ったら驚かれた。どんなのを書くの?と興味を持ってくれた。それは接客の一環として、ということなのかもしれない。
 けど、店員さんは聴き上手で私はすごく人見知りだけど初対面なのにたくさん喋った。最後に紙袋の取っ手に小指くらいの小さな造花を飾り付けてくれた。私は嬉しくて帰り道、ぐちゃぐちゃの自転車を見ながら、紙袋をぶらんぶらんさせて歩いた。
 それから何度か店に通うようになって今度は店員さんが色々と話をきかせてくれた。ヨウシ―という名前であることや、台湾で生まれて、名古屋に来てから明日で15年がたつことや、このお店を初めて8年目になること。大須で居酒屋を経営している41歳の彼氏と付き合って3年がたつこと、など。
「ちなみに今はどんな小説書いてるの?」器用に造花を紙袋の取っ手に巻きつけながらヨウシ―さんが言う。
「うーんと、二字熟語しか喋らない男が主人公の話。」
 そう言うと、ヨウシ―さんは手を叩きながら笑った。いつか絶対読ませてよ、そう言ってくれた。
 その日はなかなか来なかった。新型コロナウイルスの影響で私は必要最低限でしか県外に行っていない。大須へも一年以上は行っていない。もし、何年後かにヨウシ―さんの雑貨屋に行ってももう私のことなど憶えてないかもしれない。小説、読ませてよっていうのも社交辞令だろう。けど、いつか本当に小説を読んでくれたら嬉しいと思うし、いつになるかなんて分からないけど、ヨウシ―さんのお店で買ったネックレスや指輪をつけてお店に行ける日が早く来ればいいな。私は引き出しからオリンピックメダルを取り出して久しぶりにつけてみた。窓から差し込む光に反射してメダルはきらっと光った。

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