NAGOYA Voicy Novels Cabinet

交換留学生

宇宙

 ダサシスト星から交換留学生リクタがやってきた。あたしのゼミに参加しやがった。ただでさえカレシのファスがイシュリア星に派遣されているのに、この男、あたしに言い寄るんだ。
 イシュリア星は三八二光年の彼方。ファスは官僚の卵だ。そんな前途有望な男と付きあってるのに、なにが悲しくて辺境の惑星の田舎者に言い寄られなくてはならないんだ。あたしにはステディなカレシがいるのと言って思いっきり拒否してもひるまない。
 リクタがやってきて十日ほどがたったある日、こともあろうに彼はあたしが帰宅するコミューター電磁飛翔体に同乗しやがった。
 やあデヴァさん、奇遇ですね。奇遇なわけはないだろう。このコミューターでどこへ行くというんだ。フィールドワークですよというのが、彼の返答だった。千二百年前のボスゴル十字軍の戦没者が祀られた政府の墓地を一度見ておきたいんだと。確かに、見学する価値はあるだろう。だからといって、何もあたしと同乗する必要はないんじゃないか。それどころか、リクタはあたしに墓地の案内を要求しやがった。さすがにきつい言葉で拒否した。では、しょうがないですね。でも街でこんなものを見つけたんですよ。そう言って、リクタはバッグから箱を取り出し、あたしの手に押しつけた。あたしは突っ返そうとしたが、ちょうどコミューターが墓地の最寄りの駅に到着してドアが開き、リクタはそそくさと下車していった。あたしは仕方なしにそれを自宅まで持って帰った。
 箱を開けるのもいやだった。包装紙に包まれたまま、部屋の片隅に放り投げた。しかし、箱の中から声が聞こえてくる。気になってしょうがないので箱を開けると、中には体長十数センチの少女のロボットが入っていた。
 はじめまして、あたしローザ。あなたの名前は? 何歳? 見たところたぶん学生ね。それとも若いキャリアウーマン? 将来の夢は? カレシはいる? 好きな食べ物は? そんな感じで、しゃべるはしゃべるは。ロボットの全身を何度もまさぐったけど、結局スイッチが見つからず、あたしは数日のあいだロボットのローザのおしゃべりに付きあわされた。しかし、ファスと会えない今では、けっこう慰めになった。あたしはリクタに突っ返すまで、ローザを机に置いておくことにした。数日たつと、なんだか返すのが惜しくなってきたけど、でもリクタの思惑通りにはいかないぞとあたしは強気だった。
 そして、次の週。あたしはゼミの教室へ行き、真っ先にローザをリクタに突っ返すつもりだった。だが、リクタは来なかった。なんだ、欠席か。あたしはもう数日だけローザといられることでホッとしたが、それでも腹立ちは収まらなかった。
 ゼミの最後に、教授が言った。最後に、お知らせがあります。リクタ君は突然ですがダサシスト星に急遽帰って行きました。どうやら身内に不幸があったようです。途中で帰還すると、交換留学生の資格を失いますので、もう君たちと会うことはありません。
 あたしはあまりに急なことに呆然となった。ローザはどうしたらいい? 教授にリクタのダサシスト星の住所を訊いて送り返すか? でも彼はこれをプレゼントとしてあたしにくれたんだ。持っていても何の問題もないだろう。
 拍子抜けしたあたしはローザを自宅に持ち帰り、また机の上に置いた。ローザは懸命にあたしに話しかける。あたしは相手をした。ファスの不在の穴埋めを、ローザは見事にやってのけている。
 しかし深夜になって、ローザはいきなり男の人の声でしゃべりはじめた。なんと、リクタの声だった。
「デヴァさん、せっかく出会ったのに、お別れです。実は、僕には一つだけ年下の妹がいました。デヴァさんは僕の妹によく似ていたので、僕は驚きました。その妹も、今朝、息を引き取りました。長いあいだロスガ病で入院していたのですが、体力が尽きてしまったようです。デヴァさんと会えるのは今日が最後です。せめて、このロボットを見たときに、僕のことを思い出してください。それがいやなら、初期化して誰かにあげてください。さようなら。お元気で」

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