NAGOYA Voicy Novels Cabinet

肩書のない私でも

公園

「できたら遠慮してくれません?みんながあなたのこと怖がって一緒に働くのいやだっていうんだよね、今はちょっとのことでパワハラだって言われる時代だから」と上司に呼び出され離職を勧められた。
何も間違ったことは指摘してませんと反論しても、言い方が悪いだの、部署を変更するだのいわれ、嫌になってやめてしまった。キャリアウーマンを気取っていたが、今はただのおばさん。水谷 くみ 54歳、夫56歳と二人暮らし、子供は仕事優先だったせいかあまりほしくなく今に至った。収入はまあまあ。経済的には余裕があるほうだろう。
仕事優先、自己実現、コスパの良い生活。そんなことばかり追ってきた。ビトンのバッグ、年に2~3回は旅行。高級車に高級マンション。みんながさすがと言ってくれると思っていたが、不本意な形であっけなく会社から首になった。お別れ会一つなかった。まったく惨めだ。それから5日たった。今は何もする気がない。夫より給料がよかったから首になったなど言えない。ローンどうしよう。ちょっと具合悪くってと言って有給を装っている。
大丈夫?と夫は時々私の部屋に顔をのぞかせるが、眠れないし、朝早く目が覚める。胃が痛い。今日は10/19 。日にちの感覚はないが平日だ。みんなこれから働きにいくのかな、うらやましいな。半分仕事は生きがいだったからつらい。朝6時少し外の風に当たりたくて、玄関を開けた。外の空気は冷たく、私の心とおんなじと思い、ジャージにスリッポンで、近くの公園に行った。この公園は広くなんじゃもんじゃの木や桜が生え、春は桜や雪柳、紅葉がきれいに四季をいろどる。今はまだ紅葉とまでは行かないが、南京ハゼがそろそろ赤くなりだした。ゆったりと流れる堀川の土手沿いに人が走ったり、犬の散歩したり、太極拳をやったりしている。特に人が多いのは向こうでラジオ体操をしているらしい。40~50人くらいで、はい、腕を上げってとみんなで楽しそう。年配の人が多い。挨拶してやあ久しぶりと肩をたたく。
みんなの公園、みんなのもの。平和だなあ。青い空を見上げて思った。自分ばっかり良い仕事環境をもとめなかったか、みんなの気持ちを分かっていたか、一つのプロジェクトを失敗して大声で注意しなかったか、みんなで、シェアできてたのかな。指導的立場だったから嫌なこと押し付けちゃったのかな。だって嫌なことを言わなきゃならない立場だったから仕方なかった、間違ったことは話していないと自分に言い訳する。とても働きやすく大好きな職場だったけどみんな本当はきつかったのかな。あー自分でキャリア人生を壊しちゃった。そんな事を考えながらマンションに帰った。
もうそろそろ夫も気づくだろう。今日話そうと覚悟した。その日の夕方 父ちゃん(私はこう呼んでいる)の前に正座して話した。この役立たず、俺の立場はどうなるんだ、ローンどうするんだと言うと思っていたが、父ちゃんは、少しびっくりしていたが「もう少し休んだら?俺が働いているから大丈夫だよ、また働きたくなったら働けば?お金なくなったら節約して生活しよう」と軽くいう。「でも、私役立たずじゃん、稼ぎもなく、子供も産めず、生きていても父ちゃんの足引っ張てるじゃん」と、下を向きながら話した。「別にお前とよい生活したくって一緒にいるわけじゃないじゃん、お前はお前。そのままでいいんだよ。できることをすればいいんだよ」と話した。
ありがとう。このままの私を受け入れるってすごいな。肩書ないのに。会社を首になった役立たずで嫌われ者を受け入れてくれるとは。少し涙が出ちゃった。もう少しショックから立ち直ったら父ちゃんとラジオ体操に公園に行こう。そして朝の空気をいっぱい吸って生きていることそれだけで十分と感じよう。そしてモーニングを食べに行って喧嘩したり、仲よくしたりしよう。人生って仕事だけでもお金だけでもないし、幸せ探し競争ではないもの。自分の居場所がわかればいい。

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